実験は、ステンレス薄膜(10ミクロン厚)に細いスリットを入れてジグザグに整形して作った。これは、事実上平面ヒータと見なすことが出来ることが確かめられた。沸騰中のヒーターの平均表面温度はその電気抵抗変化から求めることが出来、これより、周囲のHe IIの温度や圧力等のいろいろな熱力学条件下において、沸騰状態における熱伝達係数を求めることが出来る様になった。同時にヒーターのすぐ上方で、沸騰に誘起されて起こる温度と圧力の変動も測定された。 測定データから、上記の温度と圧力の変動は高度な相関をもっており、さらにその変動は可視化画像に見られるほぼ周期的な蒸気泡変形、急激な膨張と収縮の繰り返し、等とも同期していることが確かめられた。その内、大振幅変動については、カオス解析の観点からも解析され、各測定値の相互関係が詳しく調べられた。 膜沸騰状態下での熱伝達係数は、ヒーター上方で計られた温度と圧力の変動にも強く依存することが分かった。3種類の膜沸騰状態、ノイジー、遷移状態、サイレントの各膜沸騰、における熱伝達係数の測定からは、沸騰状態はヒータ位置の静圧(液面からの深さに比例)に依存してそのモードが明らかに変わるが、熱伝達係数はそのモードに余り依存せずに大体同一であり、殊にλ点に近い温度では修正されたBreen-Westwater相関式で統一的に良く記述されることが確認された。さらに、これら沸騰モード間の分布マップも、温度-静圧-熱流束からなる、3次元表現として求められた。これら沸騰モードの差異は、その状態、特に蒸気-液界面の安定/不安定性に起因することも分かった。
|