本経費は、研究分担者のJSPS外国人特別研究員としての研究をサポートする費用として利用した。近年、地球温暖化に伴って降水の時系列的確率的構造、平易に述べれば豪雨が増加するかどうか、などの予測が注目の的となっているが、気候モデルにおける水循環過程のシミュレーションの難しさが障害となって、将来のそれらの変化のアセスメントはなかなかうまく進んでいない。本研究では、気候モデルの出力に、確率統計的な考えを当てはめることによって、水文学的に、気候モデルによる降水量時系列の分布関数を現実的な降水量時系列分布とするための翻訳関数を開発した。開発された数理的手法をオーストラリアの過去の降水の時系列データ、同箇所の気候モデルによる時系列出力の双方に適用した結果、本手法によって気候モデルの出力を水文モデルや水資源モデルに適用可能な量に適切に変換できることが検証された。さらに開発された手法を、特に研究者の出身地であるオーストラリアや研究地である日本を対象としながら、IPCC-databaseに存在する世界各機関の各気候モデルの出力に対して適用することによって、21世紀に地球温暖化が現実となった際に大雨が増加するかどうか、少雨が増加するか減少するか、年降水時間が増加するか減少するか、などのアセスメントを行った。ただし、注意すべき点として、本研究では翻訳関数を純粋に数学的なものとして求め物理的な背景に注目していない点が残るとともに、降水現象は水平(地理的)方向にも相関性があるが、その相関関係を考慮していない点も残る。それゆえに、本手法によって現在時点で予測された将来の降水変化予測を残しておき、将来的に将来の観測値をもって検証し、妥当性を示す必要がある。
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