資源やコストの分配を巡る「交渉(bargaining)」は、社会の基盤となる重要なマイクロ・プロセスであるにも関わらず、交渉に関する理論モデルは、実証研究で得られたデータをうまく予測することができず、両者の間に乖離が存在していた。本研究は、「適応的ヒューリスティクス」という枠組みを、「譲歩」という交渉過程におけるマクロ・レベルでの行動に適用することにより、交渉に関する新たな理論的アプローチを切り開こうとするものである。本年度は、様々な「譲歩戦略」を列挙・モデル化し、モンテ・カルロ・シミュレーションを通じて、「どの戦略が、実験場面で観察された交渉結果を再現しうるのか?」を研究した。さらに、複数の戦略と互いに競い合う状況下で、ここで見いだされた「nice bargainer戦略」が適応的な戦略として進化しうるのかを、進化的シミュレーションを通じて検討した。シミュレーションの結果は、全て、「適応的譲歩戦略」というアイデアが、実証データと合致する理論的枠組みを構築する上で、極めて有望なものであることを示している。この研究成果に基づき、本年度は学会発表×1をおこない、また現在、英語論文×1を執筆中である。さらに、関連研究として、社会的相互作用場面における社会的動機に関して2つの実験を実施し、それに基づき、学会発表×1をおこない、英語論文×2を執筆中である。
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