研究概要 |
平成14年度は1年目の年次計画に基づき、功利主義の基本的な文献を復習しながら、2年目の年次計画を部分的に先取りする形で功利主義批判の文献も検討した。また、規範的な理論の基礎論としてメタ倫理学の勉強に取り組んだ。 まず、功利主義とその批判を廻る文献の読解から、「暫定的に」ではあるとしても、次のことが言える。すなわち、従来の功利主義論はたとえば、功利主義の結果主義的な構造が行為者の道徳的な自己同一性を蔑ろにするかどうかなど、功利主義の規範的な含意に集中している。しかし、義務論と徳の倫理学からの批判にもかかわらず、規範的な理論として功利主義に見出されている「欠陥」が功利主義を制限することで(Brennan, G., Pettit, P., 'Restrictive Consequentialism', Australasian Journal of Philosophy,64,1984)回避できるとする議論は説得的である。新しい功利主義論は功利主義の規範的な含意より、むしろ、功利主義のメタ倫理学的な基礎に注目する。そのような問題設定の枠組みそのものの変化に対応し、私たちも功利主義のメタ倫理学的な基礎を俎上に載せる必要がある。 以上の知見から、倫理学の基礎論としてメタ倫理学、特に、道徳的な実在論と反実在論を廻る文献の読解に取り組んだ。直覚主義的な実在論の可能性に関し、日本哲学会に於いて「イギリス実在論とその帰結」を発表した(平成14年5月)。また、自然主義的な実在論と相対主義の係わりに関し、Horgan, T.とTimmons, Mの倫理学版「双子の地球」論法に依拠しながら、日本倫理学会で「倫理学に於けるアメリカ実在論とその帰結」を発表した(平成14年10月)。他方、反実在論に関し、表出主義がミニマリスティックな真理論に依拠することで従来の表出主義批判の乗り越えを図ることを北海道大学哲学会に於いて「倫理学に於ける表出主義とその成否」として発表した(平成14年7月)。
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