研究概要 |
平成16年度は年次計画に基づき、従来の研究を集成し、現代の規範的な倫理学の意義と限界、さらに、現代における道徳の可能性を解明する研究を完成するように努めた。まず、平成14年度・15年度に進めてきたメタ倫理学研究を規範的な倫理学の研究に繋げ、複数の規範学説の並存と道徳的な主体の自由が、メタ倫理学説としてのパティキュラリズム(particularism)により裏付けられるという知見を得ることができた。以上の論点をまとめ、日本哲学会大会で研究発表を行った(平成16年5月・南山大学)。また、道徳的な動機付けの問題の解明に努めた。研究成果は岩波書店『思想』(平成16年5月号)に「道徳的な実在論と道徳的な動機づけ」という論文として掲載された。さらに、日本倫理学会大会で、「倫理学における実在論と反実在論の論争で、所謂「フレーゲ・ギーチ問題」はどのような意味を持っているか」という題目で、研究発表を行った(平成16年10月・中央大学)。なお、日本倫理学会『倫理学年報』53集(2004年)掲載の論文「倫理学におけるアメリカ実在論と道徳的な相対主義の二つの形態」で、平成16年度和辻賞を受賞することができた。(また論文‘A Sketch of a Non-naturalistic Version of Moral Realism'が本年度の科学研究費補助金の研究報告書に掲載される予定である。)以上の研究成果を踏まえ、博士論文を完成させる予定であった。しかし、重要な著作の出版が相次ぎ、最新の研究を組み込むことで、博士論文の完成度を高める必要が出てきた。したがって、特に、以下の著作の検討に時間を割き、博士論文の完成を先に延ばした。 (1)Dancy, J., Ethics without Principles, Clarendon Press : Oxford,2004. (2)Putnam, H., Ethics without Ontology, Harvard UP : Cambridge, Massachusetts and London,2004.
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