イオン工学的成膜法のひとつであるRFマグネトロンスパッタ法を用いて、石英基板上に酸化チタン薄膜を作製した。従来のスパッタ法ではターゲットに金属チタンを用い、成膜プロセス中にスパッタガスとともに反応性ガスである酸素を混在させ酸化物薄膜の作製を行うが、本研究ではターゲットに酸化チタン焼結体を用い、成膜プロセス中に反応性ガスである酸素を共存させずに酸化チタン薄膜の作製を試みた。 成膜温度が573K以下の条件で作製すると、成膜後の焼成処理を行うことなくアナタース構造を有する酸化チタン薄膜が得られた。また、この酸化チタン薄膜は極めて高い透明性と紫外光照射下における高い光触媒活性を示した。スパッタガスに酸素を共存させた場合、成膜速度が急激に低下することが一般的に知られているが、本研究で用いた条件ではスパッタガスにArのみを用いているので十分に速い成膜速度が得られることがわかった。さらに、成膜後の焼成処理が不必要である事も、実用化を目指す上でも非常に重要な知見であると言える。 一方で、成膜温度を773K以上にすると、黄色く呈色した酸化チタン薄膜が作製できることを見出した。このことは作製した酸化チタン薄膜が可視光領域に吸収を持つことを示している。実際に、これら可視光領域に吸収を有する酸化チタン薄膜上において、可視光照射下でのNO分解反応およびアセトアルデヒドの酸化分解反応が進行することが確認できた。作製した酸化チタン薄膜の表面観察を行った結果、紫外光のみに応答する透明度の高い酸化チタン薄膜は、酸化チタン微結晶がランダムに焼結した構造を取っているのに対し、可視光応答型の酸化チタン薄膜は直径が約100nmの柱状結晶が整然と並ぶ構造を取っていることがわかった。さらに、前者の紫外光応答型の薄膜では表面から内部に至るまでO/Ti比が2.0の値を示し化学量論的な二酸化チタン薄膜であるのに対し、後者の可視光応答型薄膜では最表面において2.0の値を示すが内部にいくにしたがいO/Ti比は1.933まで減少する傾斜構造を取っていることがわかった。このように表面から内部にいたってO/Ti比が減少する傾斜構造を有することが可視光応答性を示す要因のひとつと考えられる。
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