今年度はおもにつぎのような成果があった。昨年度SPring-8に導入されたプレス揺動機構を有するKawai型装置、SPEED-Mk.IIを使用して、KAlSi_3O_8ホーランダイトの状態方程式および単斜晶系の高圧相への相境界を決定した。このKAlSi_3O_8におけるホーランダイト構造からさらなる高圧相への相転移は、東大物性研究所・八木教授との共同研究により初めて観察された相転移である。 KAlSi_3O_8ホーランダイトは、沈み込んだ海洋地殻の一部である堆積物のマントル遷移層から下部マントル条件下における主要構成鉱物である。したがって、この鉱物のマントル遷移層、下部マントル条件下における状態方程式、さらなる高圧相への相転移は、沈み込んだ堆積物の地球深部における密度を見積もる上で不可欠である。沈み込んだ堆積物は、地球深部において、海洋島玄武岩に肥沃な(液相濃集元素に富んだ)成分を供給する地球化学的貯蔵庫を形成する可能性が、地球化学的研究から指摘されている。したがって、沈み込んだ堆積物の地球深部における密度を明らかにすることは、そのような地球化学的貯蔵庫が地球深部のどこに存在するのかを明らかにするうえで不可欠な情報である。 実験の結果、圧力15-27万気圧、温度300-1800Kの範囲で、相境界および状態方程式に関するデータを得た。その結果、KAlSi_3O_8におけるホーランダイト構造から単斜晶系の高圧相への相境界は、P(GPa)=16.6+0.007T(K)で表されることが明らかになった。また、ホーランダイト構造の状態方程式パラメータを、その安定領域で収集したデータから算出した。本研究で得られた状態方程式パラメータを使って沈み込んだ堆積物の地球深部での密度を計算した結果は、それがマントル遷移層最下部に貯蔵される可能性が高いことを示唆している。
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