今年度は、ジェレミー・ベンタムの功利主義に基づく政治思想を中心に研究し、それを論文として発表するとともに、生命倫理学の分野においても論文を発表した。今年度の補助金は、主に上記の研究を遂行するための文献の購入費に当てられた。 1.ベンタムの政治思想に関しては、「功利主義による寛容の基礎づけ-ベンタムの同性愛寛容論を手がかりにして」という論文を発表した(校正中)。これは、功利主義がしばしば「多数者(世論)の専制」を許す政治理論だという批判に応えて、ベンタムが功利主義を基礎にした同性愛の寛容論を展開しており、その中でミルの他者危害原則にあたるものを使用していたことを指摘するものである。なお、この論文を執筆するにあたっては、補助金を用いて法・政治哲学に関する文献を多数購入した。 2.ベンタムの功利主義・自由主義思想の応用として、生命倫理学の分野で、(1)「ボクシング存廃論の再検討-ボクシングと自由主義の限界」(校正中)、(2)「倫理学的視点から見た性教育の問題点」、(3)「ピーター.シンガー「Ms Bとダイアン・プリティ:コメント」、ジョン・キーオン「Ms Bの事件:自殺のすべり坂か?」」の三つを論文として発表した((2)および(3)はインターネット上で閲覧可能。近日中に資料集として発行予定)。(1)はプロボクシングを廃止すべきかどうかという議論を素材にして、個人が自己決定できる範囲を検討するものである。(2)は最近の性教育に関する問題を取り上げて、情報が行為に与える影響と帰結について考察したものである。(3)は英国の安楽死事件をめぐる功利主義的立場と義務論的立場の対立を紹介したものであり、これをもとに日本生命倫理学会で発表を行なった。なお、これらの論文を執筆するにあたって、補助金を用いて生命倫理学の文献を多数購入した。
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