枯草菌の胞子形成は、不均等な細胞分裂により、大きさの異なる二つの細胞(母細胞および前胞子細胞)を生じることに始まり、母細胞・前胞子細胞間の情報伝達、時間的・空間的に制御された蛋白質発現を伴った胞子成熟過程を経て完了する。その過程を制御する重要な因子の一つSpoIIQは、前胞子細胞膜に局在する膜蛋白質であり、胞子成熟過程に伴い、局在を変え、最終的には切断を受ける。その分解には、FtsHのような膜プロテアーゼが関与することが考えられるが、その詳細や、その分解の意義は明らかにされていなかった。本研究で私は、生化学的手法を用い、SpoIIQの切断部位を同定し、SpoIIQの切断耐性変異体を単離した。SpoIIQの切断が阻害されてもなお、胞子形成効率、および、胞子形成に関与する転写因子の活性化は正常であったため、SpoIIQの切断に細胞間情報伝達のシグナルとしての役割はないことが示唆された。一方、SpoIIQの分解には、胞子形成に伴う細胞の形態変化が深く関与し、その形態変化が分解のためのチェックポイントになっていることを示唆する結果を得た。SpoIIQは、母細胞側の膜蛋白質SpoIIIAHと相互作用することで、その局在を胞子細胞に接するようつなぎ止める役割を果たしているが、私は、SpoIIQの切断によって、その相互作用がキャンセルされることを見いだした。このことは、切断のタイミングが時間的に正しく制御されていないと、蛋白質の局在を正しく制御することが出来ないことを意味する。細胞の形態変化が蛋白質分解のタイミングを制御するチェックポイントとして働いていることを示唆する結果は、細胞分化の時系列コントロールの仕組みを明らかにする手がかりになるかも知れない。
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