平成15年度は、研究対象である琵琶湖水系のハゼ科魚類トウヨシノボリにおいて、雄が保護している卵からDNAを抽出・解析し、開発したマイクロサテライトDNAプライマーを用いて、雄が番う雌の個体数を査定した。また、本種と同所的に生息しているハゼ科魚類ヌマチチブにおいても産卵基質量を操作した野外実験を行った。 トウヨシノボリの遺伝子解析に用いた保護雄および保護卵は、琵琶湖北東部の南浜と琵琶湖流入河川である安曇川の中流域において採集された。マイクロサテライトDNA解析の結果、トウヨシノボリの雄は1繁殖サイクルに1〜4個体の雌と番うことが明らかとなった。また、複数の雌が産卵した巣において、それぞれの雌が産み付けた卵の発生段階はしばしばオーバーラップしていた。この結果は、卵の発生段階の違いから産卵した雌の数を推定するというこれまで基質産卵魚で用いられてきた方法は、必ずしも有用でないことを示唆する。 本研究の比較対象種であるヌマチチブの保護雄の体サイズを、石の多い南浜と石の少ない近江舞子浜で比較したところ、前年度と同様に南浜では小さな雄も繁殖に参加していたが、近江舞子では大型の雄しか繁殖していないことがわかった。両地点に人工巣を設置し(15個/75m^2)、産卵状況を調べたところ、南線よりも近江舞子の方が有意に人工巣利用率が高かった。この結果は、南浜に比べて近江舞子では、雄の個体数に対して巣に利用可能な石の量が不足していることを示唆する。前年度の調査結果から、南浜では雄は若齢から繁殖し寿命が短く、一方の近江舞子では雄は高齢になってから繁殖し、長寿命であることが予想されている。今回の野外実験結果は、このような生活史形質の種内変異が繁殖資源量の違いによって産み出されることを強く支持する。
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