研究概要 |
本研究では,中層大気における平均子午面循環の特徴を定性的・定量的に明らかにし,その循環が気候変動に及ぼす影響を調べることを目的とする. 1.今年度は,大気微量成分に関する最新の衛星観測データのひとつであるUARS搭載の測器HALOEが観測したデータの最新バージョンを新たに収集・整理し,経度-緯度-高度-時間の4次元データセットを作成した. 2.本年度は,HALOEによって得られた水蒸気に2倍のメタンを加えた量(H^^^)に見られる季節変動成分のムラが上昇する速度を,パターンマッチングの手法を用いて明らかにした.得られた上昇速度には主に,1)準2年周期振動(QBO),2)季節変動が卓越していることがわかった.両成分の振幅は20-30hPa高度で最大〜0.1mms^<-1>とほぼ等しかったが,上昇流の季節変動は低緯度で大きく,いっぽうでQBOは熱帯で大きいという空間分布の差が特徴的である.季節変動成分は夏半球の低緯度に極大が出現するという一般的な特徴に加え,各半球が晩冬から春の時期にも極大が現れること,1-2月に各半球それぞれ独立したピーク(ダブルピーク)が見られるなどの特徴が存在していたことが特筆すべきである. 3.次に熱帯対流圏界面域における水蒸気の季節変動や経年変動が生じるプロセスを明らかにするため,エアロゾル,および絹雲の時間発展について調べた.1993年1月と1998年12月に見られた水蒸気・絹雲の東西非一様な構造は,高度70-200hPaでは惑星波数2,下部成層圏50-20hPaでは惑星波数1の大規模な空間構造を示しており,それぞれ,〜10ms^<-1>,20-30ms^<-1>の位相速度で東進していることがわかった.シンガポール上空の風速と温度のデータから,今回観測された波動は対流圏界面領域で周期20-22.5日,下部成層圏で約13日の赤道ケルビン波であることが確認された.また一番興味深いことは,ケルビン波の変動にともなって絹雲が出現していることである.このことは成層圏水蒸気量の決定するプロセスを考える際に波動にともなう温度変動も考慮する必要があることを示唆する.
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