今年度は、前年度までに明らかとなったアリルガリウム及び、遷移金属-インジウム複合系を用いるアリル化反応の不斉化に取り組んだ。このような反応系においては、水中において安定に金属イオンと相互作用を持つ配位子の設計が必須であった。種々の配位子候補化合物を鋭意検討した結果、リン酸構造が金属原子と安定な共有結合を形成し、効果的な配位子となることがわかった。リン酸構造は、生体酵素内の金属活性部位にも見られ、金属イオンを多点認識することで高選択性発現の鍵構造として機能しており、共通の構造が比較的単純な反応系においても有効であることは非常に興味深い。また研究の過程で、配位子として用いたリン酸化合物自体が単独でも強いルイス酸性を示すことが明らかとなり、現在、金属原子を用いない反応系についても平行して研究を行っている。さらに不斉リン酸触媒の開発についても検討を重ねている。具体的には酒石酸ジエステルに対して過剰量のグリニャール反応剤を加えることによってタドール型配位子を設計合成し、リン酸との複合分子を合成していうところである。これらの分子の合成は間もなく完了するので、来年度に向けて多大なる成果を期待している。リン酸という天然に豊富に存在する化合物の有用性が明らかとなればDNAを用いた不斉有機合成が達成される可能性を示唆している。化学者のみならず生物学や医学を専門とする研究者たちにも多くの示唆を与える研究になると考えている。
|