本年度は、フィールドワークで得た資料を分析するとともに、発展途上国地域での自然資源の保全に関する文献研究を進めて理論的フレームワークを構築し、論文の作成に従事した。 1990年代に入ってからのアフリカの自然資源保全政策は、「コミュニティ保全Community Conservation」と呼ばれる住民参加型アプローチを主流としているが、近年ではこのアプローチに対して二つの批判的論争、すなわち「科学的保全論」と「権力批判論」が議論されている。本研究では、この二つの批判を統合する可能性を、タンザニアの西セレンゲティ地域を事例に考察した。そこでは、イコマ人の狩猟活動の変遷と村落における野生動物消費量の分析から、現在は持続的なレベルで野生動物を利用していることを明らかにし、政府が法律で強制する科学的な資源管理と実際の住民の利用形態の乖離点を指摘した。また、村落経済と世帯経済の分析からは、国立公園に関連した観光産業が住民の生計にとって重要であることを明らかにし、さらに、そのような経済的利益が「動物を狩猟すべきでない」という保護の思想とは結びつかないことについて、資源の性質と集合行為の特性から考察した。そして、コミュニティ保全プロジェクトが抱える問題点を検討し、他地域での事例と比較しながら、セレンゲティ地域における国立公園の存在を前提とした上での住民主体の野生動物管理制度について展望を示した。 また、個人的な研究と平行して、有志を募って断続的に「人と自然研究会」を開催した。ここでは、住民による資源管理に関する論考をアフリカとアジアの事例を中心に発表・議論し、ポリティカル・エコロジー論、コモンズ論、集合行為論、政治変動論といった資源管理に関わる諸理論を批判的に検討した。
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