研究概要 |
本研究の主要なゴールは,Representational Momentum(RM)という心理現象を用いて,人間の視覚システムがどのように運動物体の移動先を予測しているかを解明することにある.本年度の研究目標は,複数の刺激が存在するようなより「日常場面に近い」実験状況での移動先予測機構の働きを調べ,また同時に,静止刺激の位置保持特性を調べることであった.実験の結果,静止刺激が付加された状況ではRMが小さくなり,静止刺激の位置は概ね正確に保持されることが示された.したがって,複数刺激が存在する場合,参照手がかりが増えるためRMが生じにくくなり,このような状況では移動先予測メカニズムの検討が難しいことが明らかとなった.本研究成果は昨夏の国際学会において発表され,国際誌にプロシーディングスとして掲載されている.さらに,1年目の研究計画が順調に進んだため,2年目に実施予定であった実験をも実施した.階層構造運動(錯視運動刺激)を用いて,錯視的移動方向・速度がRMにどのような影響を与えるかを検討した.実験の結果,錯視運動はRMに影響しないことが示され,移動先予測メカニズムは錯視運動ではなく,物理的な運動情報に基づいて効果的な予測を行っていることが示唆された.これらの研究成果は,1つの国内学会,2つの国際ワークショップにて発表され,1つの英文雑誌に掲載されている.また,眼球運動と移動先予測との関連を検討するため予備的実験を行った.このデータは1つの国際学会および国内研究会にて発表され,国内誌および国際誌プロシーディングスに掲載されている.
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