スピンクロスオーバー錯体の光誘起相転移について研究した。 1、結晶の対称性、分子構造を研究するために、近赤外光励起によるラマン分光を行った。熱的相転移でピコリルアミン分子構造も変化することがわかった。分子構造も磁性で見られる2段階転移を示すことがわかった。また、近赤外光によっても光誘起スピンクロスオーバー転移が起こることがわかった。光誘起相では低波数領域に新しい振動ピークが現われた。共鳴ラマン分光からこの振動ピークがピコリルアミン分子に起因すること、また赤外吸収分光からこの振動ピークは結晶構造の反転対称性の破れに起因することがわかった。以上から、光誘起相ではピコリルアミン分子構造の変形が結晶の対称性低下を引き起こすことがわかった。 2、エックス線回折によって、結晶の長距離秩序を研究した。光誘起相、熱誘起相の間で類似した鉄窒素間距離が得られた。光誘起相では、結晶の格子定数が高温相より小さいが、対称性は高温相と同じであることがわかった。この結果から、対称性の破れは長距離秩序を持たないことがわかった。 3、仏国・配位子化学研究所において、構成原子を系統的に置換した試料についてラマン分光を行った。原子置換によって、相転移に寄与する共同的相互作用の大きさが系統的に変化する。ラマンスペクトルの低波数領域に、熱的相転移や原子置換によって劇的に変化する振動構造を見出した。それらの振動構造の振る舞いから、相転移を支配する共同的相互作用の大きさと、振動スペクトルの関係についで議論した。
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