研究概要 |
14年度は、水中でのNi^<+2>の電子状態を記述する新たな,effective Hamiltonianの構築のため、以下の三つのことを行った。1、溶媒効果を静電(+分極)、交換、電荷移動相互作用の三つに分け、摂動論を用いて各項の定式化を行った。2、定式化したHamiltonianを我々が開発した水のCRKモデルと組み合わせ、プログラム化を行った。3、六配位クラスターのab-initio計算を行い、Hamiltonianに含まれるパラメーターの設定を行った。 1について、本研究課題を行うためには水溶液中でのNi^<+2>の全電子状態を決定できるモデルが必要となるが、そのようなモデルは我々の知る限り現在まで開発されていない。そこで、3d原子価軌道で構成されたSlater行列式の線形結合でNi^<+2>の電子状態を記述し、水との相互作用を摂動と考えて、新たなHamiltonianを定式化した。 2について、吸収スペクトルの問題を考える際に溶媒の分極ゆらぎが重要になる。そこで我々が開発したCRKモデルを溶媒に適用できるように、Ni^<+2>を量子的に、水を古典的に扱うようにし、両者の問をself-consistentに解けるようなアルゴリズムを構築し、プログラム化を行った。このプログラムは容易に分子動力学法に組み込める形になっている。 3について、過去の実験研究において、Ni^<+2>は水溶液中で非常に安定な六配位クラスターを保持することが報告されているので、クラスターに対するab-initio計算に基づいて、Hamiltonianに含まれるパラメーターの決定作業を行った。その結果、CASSCF計算を再現する物理的描像に合ったパラメーターを得ることができた。 今後は、構築したHamiltonianに基づいた分子動力学シミュレーションによって、d-d遷移の吸収スペクトルと電子緩和、エネルギー移動に対して化学的知見を得ることを目指す。
|