本研究の目的は、国内裁判所において外国国家を被告として提起された不法行為訴訟について国際法はどのような規律を行っているのかを、裁判管轄権免除の問題を中心として検討することにある。前年度は、国際法上「免除を与えなければならない」場合の考察を主に行ったが、今年度は、裁判を受ける権利の国際法による保障という観点から、逆に、国際法上「免除を与えてはならない」場合の検討を行い、両者を合わせて、外国国家に対する不法行為訴訟における裁判管轄権免除についての総合的なまとめができた。今年度の具体的な研究実績としては、法学論叢掲載の論文があり、そこでは、外国国家免除と国際法(欧州人権条約)上の「裁判を受ける権利」との関係が問題となった2001年11月の欧州人権裁判所の3つの判決(そのうち2つが不法行為訴訟に端を発する)を主な素材として考察を進め、裁判管轄権免除を国際法上「与えてはならない」場合があり得ることを示唆する判決に対して2つの観点から批判を加えた。1つは、国際法上の外国国家免除規則とは一定の場合における国内裁判所の管轄権行使を禁止するものであるから、それが適用される場合には当該事件に関してその原告は法廷地国の管轄内にはなく、裁判を受ける権利の保障がそもそも及ばないのではないか、という観点であり、もう1つは、外国国家に対する国内判決(裁判管轄権免除を与えないことの結果)の実現という問題に関する国際法の現状に照らした場合、裁判を受ける権利を通して、「裁判管轄権免除を与えてはならない」とすることが正当化されるか、という観点である。なお、この論文とは別に、外国国家に対する不法行為訴訟の一つである日本の最高裁判決(平成14年4月。横田基地事件)についての評釈も雑誌に掲載され(英文)、そこでは、慣習国際法ではなく条約(在日米軍地位協定)の問題として事件を処理すべきであったこと等を指摘した。
|