メタンをはじめとする飽和炭化水素は強固なC-H結合を有し、化学修飾の困難な物質群であることが知られている。このメタンのC-H結合を効率よく活性化する生体内酵素としてメタンモノオキシゲナーゼが知られている。この酵素は、常温常圧という温和な条件化でメタンをメタノールに転換するという驚異的な触媒機構を有するため、その反応機構には大変興味が持たれている。しかしメタンモノオキシゲナーゼによるメタンのC-H結合活性化機構に関しては、その活性中心の配位環境すら未だ明らかではない。そこで本研究は、メタンモノオキシゲナーゼによるメタン-メタノール転換反応の機構を量子化学的手法を用いて解明することを目的とする。ここで、メタンモノオキシゲナーゼの活性種として配位環境の不飽和な鉄-オキソ種を含むダイヤモンド構造を仮定し、メタン-メタノール転換反応が、メチル基とヒドロキシル基が鉄イオンに配位したヒドロキソ中間体を経る二段階協奏機構で進行することを見い出している。さらに、実験から得られた磁性状態を合理的に記述する開殻一重項状態では、メタンの水素原子が直接オキソ種に引き抜かれメチルラジカルを生成するのではなく、メタンと鉄の相互作用により、一種の分子内転位のような形で水素原子が引き抜かれることを明らかにしている。 上記研究の主な成果は、メタンモノオキシゲナーゼのメタン-メタノール転換反応が、今までに信じられてきたラジカル・リバウンド機構とは異り、二段階協奏機構で進行しうるということを新たに提案したことにある。これらの定量的解析は、単にメタンモノオキシゲナーゼの反応機構を解明するに留まらず、メタンをはじめとする不活性な飽和炭化水素の直接酸化を行う高性能触媒を構築するうえで重要な示唆を与えるものと考えられる。これらの結果をまとめた論文については既に投稿済みである。
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