本研究では、事前に設計されたπ共役系多座配位子と遷移金属イオンを用いた自己集合過程によって、多核金属錯体の合成、及びその性質に関する研究を展開してきた。本研究の研究成果は、以下の二つに要約される。 1)p-ベンゾキノン配位子を用いた、銅一価多核錯体の構築 ベンゾキノンは酸化還元活性な有機分子であり、更に二つの炭素-炭素二重結合を持っているので、遷移金属イオンに対する酸化還元多座配位子として振る舞うと考えられる。しかし、これまでにベンゾキノンを配位子とした多核金属錯体の研究例はあまりないのが現状であった。本研究では、酢酸銅(II)とヒドロキノンとの酸化還元反応を利用する事により、ベンゾキノンを配位子とし、これまでにない全く新しい構造を持つ銅(I)二核錯体の合成に成功した。更にこの二核錯体の13C-NMR、及びDFT計算から、通常の銅(I)オレフィン錯体では見られない非常に強いπバックドネーションが働いていることがわかった。 2)ヘキサアザトリフェニレン(HAT)誘導体を用いた環状六量体の構築 HATは大きなπ共役系を有する多座配位子であり、更にそのπ^*軌道のエネルギー準位が通常の共役有機分子に比べ非常に低いところに有るために、優れた電子アクセプター性を示す。本研究では、そのHAT誘導体に合理的な化学修飾を施すことにより、自己集合的なナノスケールの環状六量体の合成に成功した。更に、その環状六量体内において、架橋コバルトは七配位の珍しいジオメトリーを有していることを見いだした。また、その環中心にコバルトのヘキサアクア錯体を包摂していることを明らかにした。
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