平成15年度は、ベトナム国内縫製品市場の生産と流通形態に関する調査研究を行った。民間縫製企業の集積がとりわけ著しいホーチミン市および周辺都市部において企業調査を実施し、その生産と流通における役割に関する経済分析を行った。日本やアメリカなどの縫製品産業において、縫製品の企画を決定し、生産と流通を組織化する実質的な縫製品の生産者は「アパレル企業」と呼ばれる商業的企業であるが、ベトナムにおいてはこのような商業的主体としての生産・流通コーディネーターが不在である。そのような産業組織の中で、実質的な縫製品生産の担い手は、輸出向け縫製品生産においては海外の商社やアパレル企業だが、国内市場向け縫製品生産においては極めて零細な民間縫製企業である。詳細な経営分析の結果、国内市場向け縫製品の生産を担っている零細民間企業の利潤率は、より大きな輸出向け縫製企業のそれを上回っていることが明らかとなった。その理由として考えられるものが、1)製品企画における付加価値分、2)加工賃の低い下請企業の存在、3)インフォーマルな信用供与に含まれる実質的高利子の三つが上げられる。これらの結果は現在投稿用論文として準備中である。海外市場向け縫製品生産において、ベトナムの縫製企業が付加価値の低い生産工程に依存せざるをえない原因を、国内の流通システムの未発達にあるとした論文が、2003年9月に出版された『開放下におけるベトナムの工業・商業政策(邦訳、原書はベトナム語)』の中の「縫製産業・流通システムの未発達」として所収された。
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