我々の味覚は、濃い味に慣れると薄い味を感じにくくなる。これは味覚の順応と呼ばれ、我々が日常的に経験する現象である。現在、うまみ、甘味そして苦味は味細胞上の七回膜貫通型受容体に受容され、味細胞特異的Gタンパクであるガストデューシンを介して伝達されることが知られている。一方、1996年、Gタンパク情報伝達系の脱感作因子としてRGSが見出された。本研究は、味細胞に発現し味覚の順応を引き起こすRGSの同定を目的としている。 現在、味細胞由来の細胞株は樹立されていない。そのため、苦味受容体を発現し苦味に応答する小腸由来のSTC-1細胞をモデル細胞として用いた。まず、すべてのRGSタンパクによく保存されているRGSドメインに対する混合プイラマーを用いたRT-PCRを行い、STC-1細胞にRGS2、RGS4、RGS9が発現していることを明らかにした。また特異的プライマーを用いたRT-PCRによって、味細胞を含む舌の組織にRGS4とRGS9が特に多く存在していることが分かった。RGS4はGqとGiの制御因子であり、RGS9はガストデューシンとよく似たトランスデューシンの制御因子である。そのため、おそらくRGS9が味覚の制御にかかわっていると予想された。そこで舌におけるRGS9タンパクの発現を調べるため抗RGS9抗体を用いた蛍光抗体法を行った。その結果、味らいに抗体の陽性反応が観察された。つぎに苦味物質に対する応答にRGS9がどう作用するか、STC-1細胞にカルシウム感受性蛍光指示薬を用いたカルシウムイメージングを行い、その応答パターンを詳しく観察した。すると、RGS9を強制発現させることによって苦味に対する応答が減弱することが判明した。これらの結果は、RGS9が味細胞内において味覚の順応に寄与していることを示唆している。
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