研究代表者の研究目的は、ジテトラデシルジメチルアンモニウム-Au(dmit)_2(2C_<14>-Au(dmit)_2)塩のLB膜の構造に関する情報を主に赤外分光法を用いて抽出し、LB膜が導電相、超伝導相を実現するメカニズムを明らかにすることである。赤外スペクトルを解析するために、研究代表者が考案した新手法、位相角表示一般化二次元相関赤外分光法、を実験系に適用する。以下に平成14年度の研究成果を示す。 2C_<14>-Au(dmit)_2塩及び2C_<18>-Au(dmit)_2塩を用いて、水面上での待ち時間、アルキル鎖長等のパラメータを振り、分子配向及び膜形態を制御したLB膜を作製した。2C_<14>-Au(dmit)_2塩及び2C_<18>-Au(dmit)_2塩の単結晶の偏光顕微赤外スペクトルを測定し、2C_<14>-Au(dmit)_2塩及び2C_<18>-Au(dmit)_2塩の赤外スペクトルにおける吸収帯の振動モードの帰属を行った。作製したLB膜の分子配向、及び秩序の変化を、赤外分光法を用いて研究し、待ち時間によって、1分子占有面積が上昇し、鎖長が増加することによって、LB膜中のアルキル鎖の秩序は向上することを明らかにした。LB膜の形態を原子間力顕微鏡法により研究し、1層LB膜の形態が水面上での待ち時間、アルキル鎖長によって大きく変化することを確かめた。同時に、水面上での待ち時間、アルキル鎖長等のパラメータを振った時の、LB膜の電気伝導度測定も行った。2C_<18>-Au(dmit)_2LB膜のアルキル鎖は、2C_<14>-Au(dmit)_2LB膜のアルキル鎖より秩序が高いが、2C_<18>-Au(dmit)_2LB膜の面内電気伝導度は2C_<14>-Au(dmit)_2LB膜の面内電気伝導度より、明らかに低いという興味深い結果を得た。 一方で、温度変化赤外分光システムの構築を行い、LB膜の温度変化赤外スペクトルを測定した。また、スペクトル解析の新手法の理論拡張を行った。具体的には、一次元スペクトルにおけるバンドのシフト、ブロードニング、オーバラップ現象が、二次元位相角図に与える影響について研究した。一次元スペクトルにおいて、バンドがシフトやバンド幅の変化なしで強度変化する時、二次元位相角図における自己相関面は平面であるが、バンドがシフトする時その平面は傾斜し、バンド幅が変化するとその平面は鞍状の曲面に変形することが分かった。この新解析法を、実際に測定した温度変化赤外スペクトルに適用した。その結果に基づいた論文の投稿準備を開始した。
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