研究概要 |
海馬CA3錐体細胞は層別に異なる興奮性入力を受けており、多くの入力線維シナプス下膜においてAMPA受容体とNMDA受容体が共在しているが、苔状線維(mossy fiber, MF)シナプス下膜ではNMDA受容体の発現を欠く。本研究では、MFシナプス下膜におけるNMDA受容体の排除機構を解明するため、海馬CA3錐体細胞にNMDA受容体を強制発現させ、MFシナプス下膜にNMDA受容体を集積させるための条件をAMPA受容体の集積様式と共に検討した。 まず、MFシナプス下膜におけるAMPA受容体の集積様式を観察するため、感染細胞において未編集型GluR2(GluR2Q)を発現させる組換えシンドビスウィルス(SIN)を作製した。組換えSINにより導入された外来性GluR2Qから成るCa^<2+>透過性AMPA受容体は、培養海馬スライスにおいてMFシナプス下膜に移行し、シナプス伝達に関与し得ることが免疫組織化学および電気生理学的実験により示された。また、新規Ca^<2+>透過性AMPA受容体を介したMFシナプス後部へのCa^<2+>流入は、MFLTP誘発に影響を与えないことが明らかになった(J.Neurosci.2002,22,4312)。 次に、NMDA受容体の集積機構を検討するために、NR2BおよびGFP (green fluorescent protein)を同時に発現させる組換えSIN、SIN-EG-NR2Bを作製した。SIN-EG-NR2Bにより導入されたNR2Bサブユニットの受容体形成能を確認するため、ラット小脳にSINをin vivo注入し、NR2群を欠き、NR1のみ豊富に発現する成熟プルキンエ細胞に感染させると、GFP蛍光を発するプルキンエ細胞からNMDA受容体発現を示す電流応答が得られた。また、プルキンエ細胞への主要な興奮性入力である登上線維シナプスおよび平行線維シナプスにおける興奮性シナプス後電流においてもNMDA受容体成分が観察された。このことから、成熟プルキンエ細胞に発現する内在性NR1は、外来性NR2Bと共に機能的NMDA受容体を形成し得る能力を備えていることが示された(Eur.J.Neurosci.,2003,17,887)。
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