中枢神経系の発生過程では胎生中期前後はニューロン分化のみで、終期になりアストロサイト分化がおこる経時的な細胞分化の転換がみられるが、その制御機構は不明である。今回、我々はその制御機構にDNAメチル化が重要な働きをしていることを明らかにした。胎生14.5日(E14.5)マウス神経上皮細胞(E14.5NECs)をサイトカインLIFで刺激すると、アストロサイト特異的蛋白glial fibrillary acidic protein(GFAP)陽性アストロサイトの出現が見られた。一方、E11.5NECs、あるいは分化したニューロンではLIFによりGFAPの発現は誘導されなかったが、LIFの下流の転写因子STAT3は活性化されていた。GFAP遺伝子のプロモーター領域における遺伝子発現誘導に必須なSTAT3結合配列(TTCCGAGAA)中に存在するDNAメチル化の標的配列(CpG)は、GFAPを発現しない細胞ではメチル化の頻度が高く、E14.5NECsおよびアストロサイトでは低く、メチル化の程度とGFAP発現に逆相関を認めた。また、E11.5NECsでは高頻度にメチル化されており、経時的培養でその頻度は低下した。さらに、種々の検討により、GFAP遺伝子プロモーター上のCpGがメチル化されることで、STAT3のプロモーター結合能が抑制され、GFAPの発現抑制が惹起されることを明かにした。 また、神経前駆細胞の分化における転写抑制因子c-skiの役割についても検討した。c-skiは未分化神経細胞と分化したニューロンに発現していた。c-skiを強発現すると、その細胞はLIF刺激でもアストロサイトに分化しなかった。この分子機構として、c-skiとSTAT3との複合体形成がSTAT3の転写活性を抑制することが分かった。今後、さらにc-skiに神経分化における役割について検討する予定である。
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