研究実施計画に基づき、閉、または、境界付き3次元(双曲)多様体内に固有にはめ込まれた本質的曲面の構成・性質の研究を行った。 論文「Heegaard gradient of Seifert fibered 3-manifolds」では、Marc Lackenby氏によって定義されたヒーガード勾配(Heegaard gradient)に関する研究を行った。このヒーガード勾配は、はめ込まれた本質的曲面の普遍性に関する予想 仮想ハーケン予想「基本群が無限群である全ての閉3次元多様体は仮想ハーケンであろう」の肯定的解決に向けて導入されたものである。実際、仮想ハーケン3次元多様体が、はめ込まれた本質的曲面を含むことは定義から明らかである。Lackenby氏は、ヒーガード勾配を導入した論文の中で、3次元双曲多様体の仮想ハーケン性とヒーガード勾配の消滅が、密接に関係することを示している。本論文では、よく知られている3次元多様体のクラスであるザイフェルト多様体について、そのヒーガード勾配がいつ消滅するかを完全に決定した。 一方、千葉大学佐藤進氏との共著論文「Liftability for double coverings of immersions of non-orientable surfaces into 3-space」では、最も基本的な3次元多様体である3次元ユークリッド空間にはめ込まれた曲面の研究を行った。3次元ユークリッド空間にはめ込まれた曲面の構成法として、4次元ユークリッド空間に埋め込まれた曲面を射影するという方法が考えられる。しかし、例えば、射影平面と呼ばれる曲面のはめ込みはそのようにして得られないことが知られている。本論文では、はめ込まれた射影平面の二重被覆として得られるはめ込まれた球面も、4次元ユークリッド空間に埋め込まれた曲面の射影とならないことを証明した。また、種数の高い曲面の場合には、同様のことが成り立たない例も与えている。
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