脳には、マリファナに含まれる活性物質の標的となるカンナビノイド受容体とそのリガンド(内因性カンナビノイド)が存在する。内因性カンナビノイドは神経細胞から放出され、入力線維のシナプス終末に存在するカンナビノイド受容体を活性化して神経伝達物質の放出を抑制することが知られている。小脳プルキンエ細胞でも、細胞内カルシウム濃度上昇もしくは代謝型グルタミン酸受容体1型(mGluR1)の活性化を引き金に内因性カンナビノイドが放出され、シナプス前抑制を生じる。また、カルシウム上昇とmGluR1活性化の相互作用により抑制効果が高まることも報告されている。これまでに内因性カンナビノイドの合成経路は生化学的実験法を用いて研究され、ホスホリパーゼCの関与が示されていた。しかし、細胞特異的解析の困難やサブタイプ特異的阻害剤の欠如のためより詳しい解析がなされていなかった。プルキンエ細胞ではmGluR1から3量体GタンパクGq/11、ホスホリパーゼCβ4(PLCβ4)に至るシグナル伝達経路の存在が知られている。そこでこのシグナル経路が内因性カンナビノイド合成に関与するか検討するため、電気生理学的手法を用いPLCβ4遺伝子欠損マウスを解析した。生後約2週齢のマウスから摘出した小脳の薄切片標本を用いた。プルキンエ細胞よりホールセル記録を行い、登上線維刺激で生じる興奮性シナプス後電流(CF-EPSC)を計測した。正常マウスでは、プルキンエ細胞を脱分極して細胞内カルシウム上昇を起こすと一過性にCF-EPSCが減弱した。さらにmGluR1のアゴニストDHPGを投与した時には同じ脱分極でより強いCF-EPSCの減弱がみられた。一方、PLCβ4欠損マウスではDHPGの増強効果がほとんど失われていた。以上から、内因性カンナビノイドの合成経路にPLCβ4が介在し、脱分極による逆行性シグナル伝達を調節していると推測された。
|