保型形式からつくられるL関数として一変数保型形式のランキン・セルバーグL関数を扱い、保型形式のフーリエ係数に関する研究を進めてきた。これにより、今まで多くの一変数保型形式のフーリエ係数の情報を得ることができた。これはL関数の特殊値の研究など様々な研究の基本となる一つの情報である。 従って、多変数保型形式であるヒルベルト保型形式のL関数の研究に対して、最初に必要となるものはヒルベルト保型形式のフーリエ係数の情報である。しかし、一変数の場合と違い、ヒルベルト保型形式についてはフーリエ係数の大きさに関するラマヌジャン予想が一般的に解決しておらず、一変数保型形式を扱うより困難がある。しかし、ラマヌジャン予想が成立していなくても、解析数論的にヒルベルト保型形式のL関数を調べる(例えばs=1におけるL関数の特殊値の評価など)ために十分なフーリエ係数の情報が得られることを示すことができた。この結果はまだ限られた場合のヒルベルト保型形式に関してのものであるので、より一般的にこの議論を進めていくことが今後の課題であり、有益な情報につながると期待できる。 さて、L関数に関する大事な問題は多くあるが、最も重要なものの一つが零点の問題である。私はランキン・セルバーグL関数の零点の研究に取り組んできた。それはランキン・セルバーグL関数自体への興味と、より一般的にGL(N)のL関数の性質を研究するための準備という意味もある。 ランキン・セルバーグL関数について、ジーゲル・竜沢の定理というジーゲルの零点の問題に関する定理を証明したことを切っ掛けに、今年度、より一般的にシンメトリックL関数についてジーゲル・竜沢の定理を証明することができ、更にこれを拡張し、一般のL関数に対するジーゲル・竜沢の定理の議論を確立することができた。この結果は今年の春の学会と3月にカナダのクイーンズ大学で発表をする予定である。
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