1.図像研究:敦煌莫高窟の十六観のうち、写真図版が公開されているものは、カラーコピーとデジタルカメラを用いて複写、関連資料についても収集・整理し、これまでに調査できた第431窟、第66窟、第217窟についてはスケッチの整理・検討を行った。 2.文献研究:『観無量寿経』、観経疏、浄土教諸師に関する文献史料および研究論文の検討を行なった。 3.新たに得られた知見:(1)莫高窟において、初唐期では浄土変に十六観のモティーフが描き込まれるが、十六観が外縁部に独立して描かれるようになる盛唐期の作例では十六観のモティーフが浄土変に描かれることは殆どない。(2)一方、日本に伝来する綴織当麻曼茶羅は中国盛唐期の官営工房による制作と考えられるが、中台の浄土変にも十六観のモティーフが正確に描かれている。(3)また外縁部に描かれた十六観図についても、莫高窟の作例には経文と一致しない図像表現や配列が多くみられるのに対し、綴織当麻曼茶羅では図像表現も配列も経文にきわめて忠実である。(4)したがって莫高窟盛唐期の十六観図には写し崩れや省略があると考えられる。 4.海外調査:当初の計画では、敦煌研究院側の都合にあわせ10月から11月にかけて莫高窟での実地調査を行なう予定であったが、論文の提出時期と重なったため、調査を延期せざるをえなくなった。ところが12月以降は気候条件により調査が不可能なため、やむなく調査内容を変更し、河北省と河南省を中心に関連調査を行なった。3月には台北の故宮博物院と台湾大学を訪れ、十六観図に関する資料収集と学術交流を行なう。 5.成果の発表:敦煌莫高窟初唐期の十六観に関する論文二篇を執筆した。うち「敦煌莫高窟の西方浄土変に描かれた『観無量寿経』モティーフ」は『南都佛教』第83号に掲載予定。「敦煌莫高窟初唐期の西方浄土変-観経信仰からみた中原との関係-」は『美術史』第153号に投稿、現在査読中である。
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