2003年度は、前年度に行ったフィールドリサーチから得られた知見を、ハワイ以外の杜会との対比によって分析する作業を、以下の3つの角度から行った。 1.ホノルルとロサンゼルスの日系人の比較分析 2002年9月のホノルルでの聞き取り調査からは、ハワイの日系人のアイデンティティ構成が多元的であることが把握された。2003年度には10月にロサンゼルスで同様の聞き取り調査を行い、ハワイと西海岸での日系人を取り巻く社会的力の相違を把握した。加えて、ロサンゼルスの日系人博物館が掲げている活動理念をハワイの日系市民協会のそれと比較する作業を行った。これらの作業の成果は、「日系合衆国民のアメリカンアイデンティティ-西海岸とハワイの場合」にまとめ、諸々の研究会で報告を行った。この論文は『ソシオロジ』に投稿し、2004年2月現在、掲載審査中である。 2.大戦中の日系人強制収容に対する、合衆国の補償法の変遷の検討 この作業は、ハワイおよび西海岸の日系社会の背景を分析するために、前年度から継続しているものである。2003年度には「在米日系人強制収容に対する補償法の変遷-アメリカの国民概念に関する一考察」をまとめ、6月に明治大学の社会構造研究会で報告した後、9月刊行の『社会学評論』214号に発表した。また、1988年の補償法がアメリカの教育内容に与えた影響を分析した論文「日米歴史教科書とグローバル時代の歴史教育」をまとめ、12月刊行の渡辺雅子編『叙述のスタイルと歴史教育』に発表した。 3.「グローバル化とナショナルアイデンティティの行方」についての討論 グローバル化のもとでのナショナルアイデンティティの再編を、ハワイ社会以外の事例も含めながら考察した。このため6月の移民学会(琉球大学)に参加した。さらに、早稲田大学とウィーン大学との共同ゼミナール(6月)、早稲田社会学会の研究例会(7月)で、このテーマについての基調報告を行った。2004年3月末にも、早稲田大学での「近代合理性についての国際会議」で同様の討論を行う予定である。
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