(1)英国における条件不利地域政策の潮流 本年度は、英国における環境政策の歴史を概観し、国家政策の最上位目標である「サスティナブル・デベロップメント(SD)」について整理した。地方自治体に策定が義務づけられたlocal Agenda 21(LA21)が与えた影響は4点である。(1)SDの定義と目標設定、(2)環境・生涯教育事業の策定、(3)法定計画の見直し、整合性の確保、(4)協働、ボトムアップの推進。政策実施の組織体制の変化も顕著であった。ブレア政権下で実施されてきた1999年のスコットランド議会への権限委譲を含む地方分権化、省庁再編(DETRの環境部門が旧農水省(MAFF)へ移動し、交通/地方政府省(DTLR)と環境/食料/農村地域省(DEFRA)に再組織)により、農業保全対都市開発といったねじれた対立関係の構図から、農村と都市という地域連携の構図へのシフトが明瞭となったことは興味深い。 (2)まちづくり中間セクターHighlands & Islands Enterprise(HIE)の取り組み 欧州内でも最過疎地域のひとつ、いわゆる条件不利地域であるこの地域では60年代半ばから国家的な経済テコ入れ政策が、HIEという公的な専門家集団によって展開されてきた。HIEが実践してきた計画の一手法であるCommunity Developmentとは、1)進行し続ける過程そのものであること、2)その過程で生活の質の向上を目指していること、3)その営みの主体はコミュニティ自身であること、と解釈できる。また、スコットランド政府は、1997年にその先駆的取り組みとしてCommunity Planning(CP)という新しいアプローチを導入した。CPとは地方自治体やHIEなど公的組織がパートナーシップを構築し、効率的で質の高い公共サービスを提供する仕組みであると言える。先駆的事例であるハイランドでは、6つの公的組織と住民組織がWellbeing Allianceという緩やかなパートナーシップを組織し、"Community Planing for Highland"と題した共治宣言を発表しているが、その推進役としてHIEが触媒役としての機能を果たしていた。「総合性、プロセス重視、人脈ネットワーク」の三位一体となった中間セクターの組織化が近年の英国地域政策の主流であるといえる。
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