デジェネリン遺伝子ファミリーは陽イオンチャネルの特徴を示し、線虫からヒトに至るまで幅広い種間で保存された領域を有している。その機能は、機械受容・ペプチド感受性チャネル・プロトンチャネル・酸味受容体・アシドーシスにおける痛覚受容など多岐にわたる。このファミリーに属するアミロライド感受性上皮型Na^+チャネル(ENaC)として4種類のサブユニット(α、β、γ、δ)が同定されているが、中枢神経型ENaCδの機能は不明である。現在のところ、ENaCδ遺伝子はヒトおよびチンパンジーでしか見出されていないため、進化の過程において霊長類のみが獲得した稀有な遺伝子である可能性が高い。前年度までの成果で、ENaCδは、小脳や海馬等を含めたヒト脳に広く分布し、心臓・腎臓・膵臓にも高発現していることを示した。さらに、細胞外pHの低下によって、ENaCδが活性化されることを明らかにした。本年度は、ENaCδに作用する化合物の検索を目標とした。スクリーニングは、ヒトENaCδをアフリカツメガエル卵母細胞に発現させた構築系で行った。数十種類の化合物を探索した結果、合成化合物であるカプサゼピンがENaCδを活性化することを明らかにした。カプサゼピンは、ENaCの他のサブユニットには作用しなかったので、ENaCδ選択的アゴニストとして報告した。現在のところ、ENaCδがヒト脳内のpHセンサーとして機能していると報告した以外にはほとんど明らかになっていないENaCδの生体内機能を解明する上で、カプサゼピンは、非常に有益な化合物であると考えられる。
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