研究概要 |
金属と有機分子の2成分からなる有機金属クラスターは、溶液中における金属の溶媒和過程や、触媒反応を研究するための微視的モデルとして考えることができる。本研究では、イオントラップ法を用いて有機金属クラスターの赤外光解離スペクトルを測定した。理論計算の結果と比較することでクラスターの構造、反応性について議論した。実験装置はクラスター源と、イオンガイド型の光解離分光装置からなる。有機金属クラスターの生成には、レーザー蒸発法と超音速分子線法を組み合わせて用いた。Mg^+(H_2O)_nの赤外光解離スペクトルを測定し、計算と比較して議論した。n≦3では全ての水分子が酸素原子側からMg^+に結合した構造により実測スペクトルを説明できた。n=4では3100,3400cm^<-1>付近に水分子同士が水素結合したOH結合の伸縮振動に帰属されるバンドが現れた。よってMg^+の第一溶媒和圏は三分子で閉じ,四個目の水分子は他の水分子と水素結合を形成して安定化すると結論した。一方、Al^+(H_2O)_2の赤外スペクトルには[HOAlH]^+のOHの伸縮振動に帰属されるバンドが現れた。これよりAl^+(H_2O)_2では、Al^+が水分子のOH結合間に挿入された構造をもっていることが明らかとなった。以前行われた理論計算の結果もAl^+(H_2O)_nにおける今回の結果を支持している。しかし、このような金属原子の挿入反応はMg^+(H_2O)_nでは全く見られなかった。よって、これらの結果は、金属-分子2成分クラスター内での反応性が金属の種類、すなわち電子構造により大きく異なることを示している。
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