(1)HemAT-Bsは枯草菌の酸素への走化性制御系において、酸素センサーとして機能する情報伝達蛋白質である。HemAT-BsのN末領域は酸素感知ドメインでC末領域は機能発生ドメインである。N末領域の酸素感知ドメインは、アミノ酸配列がミオグロビンと相同性を有し補欠分子族としてプロトヘムが含まれていることから、ヘムが酸素感知機構に関与していると推定された。本研究員はこれまでに、このヘムによる酸素感知機構を解明すべく可視共鳴ラマン分光法により酸素結合型、還元型、およびCO結合型HemAT-Bsの性質を解析してきた。その結果、HemAT-Bsに酸素分子またはCO分子が結合したときでは、遠位側ヘムの環境が異なることを明らかにした。この気体分子による遠位側ヘム構造の選択メカニズムは、酸素感知およびシグナル発信機構の本質であり、分子レベルで解明することはセンサー蛋白質における外的環境感知機構およびその後の蛋白骨格を介した情報伝播機構を解明するために重要である。 (2)密度汎関数法を用いて、一酸化炭素配位型ヘムについて理論解析を行った。現在、その結果について速報論文を作成しているため詳細についてはここに記述できないが、その種がこれまで知られていなかった大変興味深い物理化学的性質を有していることを見いだした。このヘムによる気体センシング機構は情報伝達機構の解明に本質的であり、今後の紫外共鳴ラマン研究に寄与するものと考えられる。
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