研究概要 |
琵琶湖の西岸の新旭町に分布する黒ボク土,琵琶湖東岸の曽根沼から得られた堆積物コアについて連続的に微粒炭の含有量測定を行い,花粉分析から復元された植生と比較し検討した.さらに微粒炭が多数含まれていた層準については,微粒炭の反射率測定や化学分析を行った.そして,これらの結果を基に,いつ頃琵琶湖の周辺地域において植物燃焼が多かったのか,またその燃焼物や燃焼温度・燃焼形態などについて検討した. 曽根沼堆積物・黒ボク土中の微粒炭の含有量測定の結果から,植物燃焼量が増加するのは,約1万年前以降であると推測された.1万年前以降の微粒炭量の増加は,琵琶湖で掘削されたコアの研究からも報告されており,琶湖周辺地域では,約1万年前以降に植物燃焼が増加したものと考えられた.なお,こうした微粒炭の増加時期には,琵琶湖堆積物・曽根沼堆積物などでコナラ亜属やイネ科花粉の増加が認められる.約1万年前以降に限って植物燃焼量が増加する要因としては気候変化のみによるものとは考えにくく,人間活動などの他の要因が関与していた可能性が高いと考えられる. また,反射率測定や化学分析の結果から,黒ボク土中に含まれる微粒炭と曽根沼堆積物中に含まれる微粒炭とでは,大きく光学的特性や化学組成が異なっていた.また,曽根沼堆積物では,層準によっても微粒炭の特性が異なっていた.こうした違いは,これらの微粒炭の燃焼物や燃焼温度の相違に由来するものと考えられる.以上のことから,琵琶湖周辺地域では,約1万年頃前から,植物燃焼が多くなったと考えられるが,その燃焼物や燃焼形態は,場所や時期などによって異なるものであったと推測される. 以上の成果は,堆積物中の微粒炭の含有量分析・反射率測定・化学分析などが過去の植物燃焼を評価する上で有効な手法であることを示唆している.
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