トロンボキサン産生異常と大腸ガン発症との分子機能連関

2002 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 02J04313
• 研究機関: 富山医科薬科大学
• 研究代表者: 鈴木 智之 富山医科薬科大学, 大学院・薬学研究科, 特別研究員(DC2)
• キーワード: トロンボキサン合成酵素(TXS) / 大腸ガン / NF-E2

研究概要

本研究で、ヒト大腸ガン組織におけるトロンボキサン合成酵素(TXS)遺伝子発現の調節機構、TXSの役割を検討し、以下のような新規知見を得た。ヒト大腸組織は、当大学附属病院長が患者に手術摘出標本を使用することの同意書を得た場合のみ医学部外科学講座の協力を得て使用した。
1,TXSの転写因子であるNF-E2は、主に血球系に発現しているが、例外として大腸に発現していることが報告されている。本研究でNF-E2が、ヒト大腸正常組織に比べ、ガン組織で増加していることを発見した。2,大腸ガン培養細胞の増殖が、TXS阻害剤およびTXSのアンチセンスオリゴヌクレオチドにより抑制された。この細胞増殖に関わる機構を探る目的で、650種類の遺伝子についてDNAマイクロアレイにより検討したが、TXS阻害剤処理により顕著に変化する遺伝子はなく、現在、数万種類の遺伝子について網羅的な検索を行っている。3,最近、TXS蛋白質が、ヒト大腸ガン組織で増加していることを免疫組織染色により明らかにした。本研究では、十分量の組織入手が可能となったため、蛋白質の定量実験を試みた。その結果、正常組織に比べ、ガン組織において再現性良くTXS蛋白質発現が増加していた。また、同様に大腸ガン培養細胞におけるTXS蛋白質の発現も確認した。4,大腸ガン組織においてNa^+, K^+-ATPaseの発現量が減少しているという興味深い知見を得た。
本研究により、大腸ガン組織でNF-E2の発現が増加し、共にTXSの発現も増加したことから、NF-E2は大腸ガン組織において重要な役割を果たしている可能性が考えられた。また、TXSは、大腸ガン細胞の増殖に重要であることが分かった。今後、NF-E2と大腸ガンとの関連性の検討、TXSの細胞増殖メカニズムの解明、およびTXSとNa^+, K^+-ATPaseの関連性について検討する予定である。

研究成果

• [文献書誌] Sakai, H.^*, Suzuki, T.^*, Murota, M., Takahashi, Y., Takeguchi, N.^*equivalent author: "Nitric oxide-induced Cl^-secretion in isolated rat colon is mediated by the release of thromboxane A_2"Journal of Physiology. 543.1. 261-271 (2002)
• [文献書誌] Takahashi, Y.^*, Sakai, H.^*, Kuragari, M.^*, Suzuki, T.^*, Tauchi, K., Minamimura, T., Tsukada, K., Asano, S., Takeguchi, N.^*equivalent author: "Expression of ATP1AL1, a Non-Gastric Proton Pump, in Human Colorectum"Japanese Journal of Physiology. 52.3. 317-321 (2002)
• [文献書誌] Sakai, H.^*, Suzuki, T.^*, Murota, M., Oketani, K., Uchiumi, T., Murakami, M., Takeguchi, N.^*equivalent author: "E3040 sulphate, a novel thromboxane synthase inhibitor, blocks the Cl^-secretion induced by platelet-activating factor in isolated rat colon"British Journal of Pharmacology. 136.3. 383-390 (2002)
• [文献書誌] Sakai, H.^*, Suzuki, T.^*, Murota, M., Takeguchi, N.^*equivalent author: "Nitric oxide / cyclic GMP-induced Cl^-secretion in isolated rat colon is mediated by production of thromboxane A_2"Journal of Physiology. 539. 3-4 (2002)
• [文献書誌] Suzuki, T., Murota, M., Sakai, H., Oketani, K., Murakami, M., Takeguchi, N.: "Inhibition of thromboxane A_2-mediated Cl^-secretion by E3040 sulphate in isolated rat colon"Journal of Physiology. 539. 17-18 (2002)