研究概要 |
アメリカ英語では副詞overが繰り返し概念を表すのに使用されることがある。イギリス英語でもOEDを調べると,かつてにoverのアスペクト用法があったことがわかる。また,このoverには単なる「あるeventの繰り返し」だけではなく,前の行為の結果とは異なる結果を出すべく,なにかactivityを繰り返す,という「訂正概念」の含意がある。さらに,overの前置詞・副詞用法をイメージスキーマを使って説明しようとした先行研究では,アスペクト用法はあまり焦点があてられておらず,Lakoff(1987)ではアスペクトoverは「他の用法に比べて動機付けに乏しい」と説明されている。このようなアスペクトoverの特性が,その文法化発達の経路にどのように反映されているかを考察した。OED,MED,オンラインコーパス,さらにMalory Wks.等など,できるだけ幅広くME-ModEのテキストを調べた結果,アスペクトoverの発達にはイメージスキーマよりも,イディオム的表現が大きな役割を果たしていることが分かった。イメージスキーマ基盤の弱いアスペクト的overは,その文法化課程においても独自のイメージスキーマに基づく「自力」拡張が難しく,イディオムの力を借りる必要があったと考えられる。 また,「訂正」概念の発生はoverのスキーマのうち,coveringスキーマの保持化現象である。ただし,歴史的データに現れるアスペクトoverの中にはかならずしも訂正概念を含意しないものもある。このような例は,慣用化された動詞句表現であるか,あるいは同一節中に何らかの形で繰り返し概念を表すような要素(複数名詞など)が現れている。複数名詞が現れる場合,アスペクトoverの存在は冗長的になる。この冗長さはoverのイディオム表現や加重表現で訂正概念が消失するのと同じ仕組みであり,体系的に説明がつくことを指摘した。
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