熱平衡系において、酸化物-炭化物複合材料の作製は困難である。それは、酸化物炭化物の共存状態に比べ、酸化物あるいは炭化物が単独で存在するほうが熱力学的ポテンシャルが低いことに起因し、そのため酸化雰囲気中ではしばしば炭化物は酸化されてしまう。本研究ではPLD(Pulsed-Laser-Deposition)法を用いて、非平衡系で酸化物と炭化物の交互積層を行うことによりその困難を克服し、酸化物(MgO)-炭化物(Tic)交互積層人工格子の作製に成功した。X線回折測定から、明確な超格子ピークおよびサテライトピークが観測され、予想周期構造が実現しているものと考えられる。また、SIMS(2次イオン質量分析)測定においても、MgO層とTiC層が交互に積層していることが確認できた。さらに断面TEM観察により、より直接的に、積層構造を確認するとともに、TEDパターンから、Tic層とMgO層が互いにエピタキシャル成長していることも確認できた。現時点では各原子層数が(5:5)程度の人工格子作製に成功している。また、電子輸送特性として、Tic層の層厚が比較的厚いとき(10原子層以上)は、TiC単相膜の場合と同様金属的挙動を示すのに対し、TiC層厚が10〜5原子層程度に小さくなるに従い、半導体的挙動を示すことを確認した。これは、積層周期が小さくなるにつれTic-MgO界面の割合が増加し、界面における散乱の影響が大きくなるためと考えられる。以上に示したように、酸化物-炭化物の原子レベルでのエピタキシャル交互積層構造は初めてのものであり、今後様々な物質の組合せでの交互積層人工超格子作製の可能性を示唆するものである。
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