低分子量Gタンパク質の一つRasは、代表的なシグナル伝達タンパク質である。Rasは多様なエフェクター分子と相互作用し、様々なシグナル伝達経路に関与していることが知られている。細胞の増殖や分化に関与している一方で、細胞死にも関与するなど相反する経路の調節に関わっている。Rasがエフェクターをどのように認識し選択しているかは未解明である。 近年、タンパク質の柔らかさが、その機能と深く関わっていることが重要視されていることをふまえ、本研究では、Rasの構造変化と、エフェクターの分子認識機構について明らかにすることを目的としている。実験系は、全反射顕微鏡による1分子イメージング法を用いた。本年度は、新たにRasとエフェクター分子であるRafとの相互作用の1分子レベルでの可視化を行った。その結果、不活性型Rasと活性型Rasのどちらにも同じ時定数Rafが結合することがわかったが、結合頻度には10倍以上の差があることがわかった。また蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET)に加え、蛍光色素の偏光を同時観察可能な顕微鏡を新規に開発し、Ras 1分子の構造変化の可視化に成功した。その結果、Rasの構造には複数の準安定状態がみられ、その状態間を秒オーダーでゆっくりと遷移していることが示唆された。また特定のエフェクターとのみ結合できる変異体及びエフェクターとの結合時の構造を計測したところ、Rasの構造とエフェクターとの選択性は1対1に対応していることが示唆された。研究成果は日本生物物理学会及び日本分子生物学会上で発表した。これまでの研究成果は本年中に学術論文に投稿をする。また、膜上で観察するためのRasは既に遺伝子工学的に作成し、人工膜上でのRasとエフェクター1分子を観察する顕微鏡の立ち上げはほぼ完了した。本年度は、論文投稿を中心に、積極的に海外での学会発表を行い、国内外へ研究成果の発表を行っていく。
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