「マレーシアにおけるムスリムの家事紛争解決過程:合意形成における合意分析を中心として」は、マレーシアにおけるシャリーア裁判所をはじめとしたイスラーム関連機関における家事紛争処理の過程についてはじめて本格的に研究したといえるSharifah Zaleha Syed Hassan & Sven Cederroth共著の『マレーシアにおける婚姻関係紛争の処理:イスラームの調停者とシャリーア裁判所の紛争解決』(Man aging Marital Disputes in Malaysia : Islamic Mediators and Conflict Resolution in the Syariah Courts)に記されたいくつかの紛争処理の例を手掛かりとして、裁判=裁定以外の紛争解決過程における言説分析を通して、紛争当事者が第三者の介入によって「合意」にいたる過程を明らかにした。そこで明らかになったことは、配偶者間の家事紛争では争点の確定から紛争の解決に至る過程において「扶養者たる夫と献身的な妻」=「良い夫婦」という構図を規定とした言説が支配しているが、「扶養者たる夫と献身的な妻」の言説はイスラーム法における夫婦の権利義務関係(夫の扶養義務と妻の服従義務)とは必ずしも同一ではない。すなわち、法規範だけでなくローカルな規範をも包摂する人々の日常的言説たる「扶養者たる夫と献身的な妻」の言説が、裁判=裁定以外の紛争解決過程において支配しているのである。 「イスラーム離婚法におけるジェンダー:マレーシア・1984年イスラーム家族法(連邦直轄領)を手がかりとして」では、イスラーム家族法における男女の異なり権利義務について検討し、女性の権利保護をもたらした近年の法改革が実際の裁判においては考慮されない例を指摘した。
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