本年度は、味覚刺激の持つ情動喚起性の特性をさらに検討するために、味覚嫌悪学習事態における味覚刺激に対する条件性制止子を用いた実験的検討を行った。内容としては、味覚刺激の非到来を予測するような風味刺激を条件性制止子として形成した上で、この風味刺激と塩化リチウムの対提示を行い、制止性に喚起される味覚刺激表象と塩化リチウムとの間の連合形態を検討した。本研究において中心的手法としてあげている獲得等価性・差異性に関しては、ある刺激が喚起する表象と他の刺激とが対提示されることによって、実際に刺激を対提示した場合と同様の興奮の連合が表象間にも形成されることが間接的に示されているが、同様の手続きにおいて表象間に制止の連合が形成されることを示す研究も存在し、刺激-表象間連合の特性に関しては様々な理論的問題が残されている。特に味覚刺激に関しては情動喚起性という特性も持っており、こうした問題は味覚刺激の特性を明らかにするのみならず、より一般的な理論的問題に対する示唆に富むものと考えられる。実験の結果、興奮性の連合によって喚起された味覚表象と塩化リチウムとの間には興奮の連合が形成され、また制止性に喚起された味覚表象と塩化リチウムとの間には両方の連合が同時に形成されることを示唆する結果が得られた。こうした結果は、刺激表象間に興奮・制止の両方の連合が共存しうるというBoutonらの理論が示唆するところと一致する。これらの研究成果は、日本動物心理学会において報告された。
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