研究概要 |
以下、2点についての検討を実施した。 はじめに、曖昧表情の判断過程に影響する文脈的要因として、ターゲットに先行する閾下刺激の影響について、感情プライミング・パラダイムによる検討を行った。プライム刺激として「怒り」「中性」表情を閾下(30ms)提示し、被験者には、閾上(500ms)提示された曖昧な表情に対するカテゴリー判断をもとめた。分析の結果、プライム刺激が怒り表情である場合においてのみ、右扁桃体が活性化することがわかった。また、この右扁桃体と右腹側前頭前野の双方向の抑制関係が、共分散構造解析により確認された。なお、相関分析により、扁桃体の活性値と、怒り表情が先行提示された場合に曖昧表情を怒りとする判断率に正相関があり、扁桃体の感受性の高い人は、閾下刺激により生起したある種粗い感情を手掛かりとしたヒューリスティックな判断に依拠することが示唆された. ところで、意識的な知覚なくしては、正確な判断をおこなうことは困難なはずである。こうした閾下表情刺激の判断にあたり、その文脈的情報として判断の正答・誤答のフィードバックを与えると、その判断の精度は向上するのか、といった点について検討を実施した。実験デザインは、プライム刺激(表出強度の強い怒り表情,表出強度の強い幸福表情,中性表情)と(正フィードバック,ランダム・フィードバック,フィードバック無し)の3×3の2要因を被験者内変数により配置された。実験の結果、正フィードバック条件における反応時間が、誤フィードバック条件、ならびにフィードバック無し条件よりも有意に短くなっていた。このことから、閾下刺激の判断の手掛かりが、閾下刺激についての情報が閾上で正しくフィードバックすることで強化され、その判断が容易となっている可能性が示唆された。
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