1.2002年8月〜2003年8月にかけて、大台ヶ原においてニホンジカのルーメン液を用いたin vitro培養試験を2週間×3回おこなった。すなわち、ニホンジカの主食であるミヤコザサに樹皮を5%混合した試料と、ミヤコザサ単体の試料をそれぞれ培養し、発酵過程の違いについて調べた。その結果、樹皮の5%の混合はササの消化には影響を及ぼさないことが明らかとなった。また、樹皮単体の消化率は常にササの消化率よりも低いことが明らかとなった。さらに、春(5、6月)の実験において、樹皮の消化率が負の値を取ることが多かった。これは、樹皮によるルーメン液中のタンパク質もしくは微生物の吸着を示唆していると考えられる。この結果から、樹皮はルーメン内でササとは異なる反応をし、またその反応は季節によって異なる可能性があるということが示唆された。 2.2002年8月〜2003年8月にかけて、大台ヶ原においてニホンジカの血液サンプルの採取をおこない、19個体分のサンプルを得た。この血液について血中尿素窒素濃度と血中ミネラル濃度(Ca、Mg、NaおよびK)を測定した。シカの血中尿素窒素濃度には季節的な変化は見られず、また家畜(ウシ)の標準濃度より高い値であった。この結果から、大台ヶ原のシカは、サンプルのなかった冬季を除いて良好な栄養状態を保っていることが示唆された。また、血中K濃度が夏季(8月)に高い傾向が見られた。過去の研究から、シカの主食であるミヤコザサのK濃度は夏季に高くなることが明らかとなっており、シカの血中K濃度はこの影響を受けて夏季に高い値を示すと考えられた。 3.上記を含むこれまでの研究結果を基に、論文を2編作成した(投稿中および投稿準備中)。
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