大腸菌走化性の実現のためには、刺激に応答するだけでなく、一定の刺激に適応することが必須である。適応には走化性レセプターの可逆的メチル化によって起こる。メチル化酵素CheRはレセプターのメチル化部位から離れたC末端NWETF配列に結合することが明らかになっている。私は、NWETF配列の役割をさらに解析するために、CheRと結合できないNAETF変異体から遺伝子内抑圧変異を単離した。その結果、この配列はCheRを大腸菌の極に局在するレセプター複合体に局在させるために必要であることを明らかにした。このように、レセプターとCheRの結合に関して、レセプター側の解析はなされていたが、CheR側の解析はその三次元構造が解かれている以外はほとんどされていなかった。そこで、まずCheRの中で重要な残基を特定するために、データベースからCheRおよびCheR以外のS-アデノシルメチオニン依存的なメチル基転移酵素を集め比較した。その結果、全てのCheRは3つの領域(CheR特異的N末端ドメイン、C末端活性ドメインと、C末端にあるCheR特異的βサブドメイン)から成ることが明らかになった。これまで、CheRとレセプターのメチル化部位の結合は検出されていなかったが、S-S架橋を用いた系を新たに導入し、この相互作用を直接検出した。その結果、CheRのN末端ドメイン内α2の正電荷を含む面とレセプターの負電荷を含む面の相互作用がメチル化部位の認識に必須であると推定された。また、GHPとCheRの融合タンパク質を用いて、CheRがレセプターのNWETF配列とCheRのβサブドメインの結合を介して極に局在することを明らかにした。以上のように、本研究では、適応過程においてCheRはレセプターを効率よくメチル化するために2種類の結合を用いている。すなわち、極局在のためのCheR特異的なβサブドメインとレセプターNWETF配列の結合と、レセプターのメチル化部位を認識するための、CheRのN末端ドメインとレセプターのメチル化部位の相互作用である。
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