C.elegansにおいてカルシウム/カルモジュリン依存性のタンパク質脱リン酸化酵素であるカルシニューリンTAX-6は、感覚ニューロンの感度を負に調節している。本研究では神経系におけるカルシニューリン情報伝達機系を明らかにするために、分子遺伝学的手法をもちいた解析を行った。平成15年度の研究では、哺乳類の脳でカルシニューリン情報伝達系に関与するタンパク質リン酸化酵素CaMキナーゼIIに着目し、そのC.elegans感覚ニューロンにおける機能を検証した。哺乳類の記憶・学習成立機構において、カルシニューリンとCaMキナーゼIIは括抗的に機能していると考えられている。そこで、C.elegansにおいてCaMキナーゼII UNC-43が、カルシニューリンTAX-6と括抗した機能を担っているかを検証した。CaMキナ-ゼIIの機能欠失変異体unc-43は、好冷性の温度走性異常を示した。この異常は、tax-6変異体が示す好熱性異常とは逆の表現型であった。また、unc-43変異体が示す好冷性異常は温度受容ニューロンAFD特異的にunc-43cDNAを発現させることでレスキューされたことから、UNC-43はTAX-6と同様に温度受容ニューロンAFDで機能していることが明らかになった。さらに、unc-43cDNAを温度受容ニューロンAFD特異的に過剰発現させた個体は、AFDの感度が上昇しているtax-6機能欠失変異体と同様に好熱性異常を示した。これらの結果から、CaM キナーゼII UNC-43はカルシニューリンTAX-6とは逆に温度受容ニューロンAFDの活性を正に制御する因子であることが明らかになった。
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