本年度の研究の主眼は、地域農業の世代間最適資源配分問題を考察するための理論的枠組みについて考察を行い、次年度以降遂行される現実データを用いた実証分析のために実行可能な基礎を与えることである。そのためにまず理論の枠組みにおいて地域農業経営をどの粒度で捉えるかが問題となる。そこで、次のような考察を行った。まず、本研究の基本的な分析の立場は(流通業者も含めた)農業経営体と土地資源の空間的分布および時間的水準の推移を動学として把握し、その結果達成される幾つかの均衡状態およびそれらの地域社会厚生水準を計算し比較することで、望ましい均衡のあり方について考察を行うというものである。ここで近年わが国の地域農業の経営主体が第3セクターや農業公社など多岐に渡り、所与の農地の耕作主体が年次により異なる方向にあることも考慮すると、消費地または市場、流通、産地、関連産業の分布を初期条件として1つのシステムと考え、これらが内生的に相互作用を及ぼすことで1つの地域農業システムの単位が均衡として発現、生成されると考えた。次にこの単位の通時的効用最大化問題を定量的に解くために対象となる農業地域の地勢、流通経路、市場の産地を基準とした地理的立地に関するデータが時系列として必要である。そこで近年土地計画に有用性が指摘されている地理情報システム(Geographical Information System ; GIS)に着目し、平成14年11月26日よりネパール王国カトマンズで開催されたアジアリモートセンシング学会へ出席した。圃場整備や治水について綿密な行政計画が必要とされる地域がアジアには多く、そこでのGISを利用は世界の中でも特に多くの関心を集めて豊富な適用事例が蓄積されている。この参加から得られた知見により、GISデータを基礎にシステムダイナミクスの手法を用いることにより地域農業の「圏」が経済学的に扱い可能なレベルまで特定できる可能性が示唆された。
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