D体アスパラギン酸は、神経・内分泌器官に多く含まれており、神経・内分泌機能に重要であると言われているが、その詳細は不明である。申請者は、D-アスパラギン酸が松果体におけるメラトニン合成の制御因子であることを見いだし、そのシグナリング経路を解析した。その結果、松果体細胞はD-アスパラギン酸を合成し、放出し、受容体を介してシグナルを伝達していることがわかってきた。この研究中に松果体細胞には、これまで神経ではみられなかった新しいD-アスパラギン酸受容体というべき受容体が発現していることを見いだした。この受容体はイオン型であり、D-アスパラギン酸が結合するとCa2+が細胞外より流入する。本研究の目的の一つは、この受容体のcDNAをクローン化し、その性質を解明することである。さらに、申請者の研究室ではPC12細胞においてD-アスパラギン酸が分泌顆粒に含まれており開口放出されること、そのためにD-アスパラギン酸が顆粒内に濃縮されることを見いだしている。申請者は、このプロセスが他の神経伝達物質の小胞内濃縮と同様の機構で行われておりD-アスパラギン酸に特異的な小胞型輸送系が関与していることを見いだした。本研究の二つの目的は、この輸送系のcDNAをクローン化しその性質を解明することである。そして、これらの研究を通じて、脳神経・内分泌系におけるD-アスパラギン酸の作動機構を分子レベルで解明する。 以上のような目的の中で平成14年度は以下の事を明らかにした。 これまでの我々の研究によって、松果体においてグルタミン酸やアスパラギン酸がメラトニン合成の抑制因子であることを見いだしそのシグナリング経路の解析を行ってきた。しかし、その解析の中で唯一、伝達物質の濃縮系が不明なまま残されていた。近年、我々の研究室を含むいくつかの研究室において無機燐酸を輸送すると考えられていたタンパク質(BNPI/DNPI)が小胞内にグルタミン酸を輸送する事を明らかにした。そこでこれらのタンパク質が松果体におけるシグナル伝達物質の濃縮系に機能していると考えその発現と局在場所の同定を行った。BNPI/DNPI遺伝子およびタンパク質配列を元に遺伝子プローブと特異的抗体を作成した。遺伝子プローブを用いRT-PCR法・Northern Blotting法を、特異的抗体を用いWestern Blotting法・免疫蛍光抗体法・免疫電子顕微鏡法による解析を行った。その結果、2つのタンパク質は松果体実質細胞のマイクロベシクルに発現・局在している事を明らかにした。すなわち、BNPI/DNPIタンパク質は松果体においてシグナル伝達物質の濃縮に機能していると考えられる。これらの結果は、J Biol Chem.(2001)およびJ Neurochem.に報告した。
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