本年度はベンサムの経済学的認識の全体的枠組を確定する作業を行なった。法哲学者という基本的スタンスからのベンサムの経済へのアプローチを理解する為、彼が『民法典』で提示した幸福の副次的目的とする「生存、安全、豊富、平等」の相互関係の検討を行ない、これを2004年7月10日一橋大学で開かれた日本功利主義学会にて「ベンサムにおける平等について」というタイトルで発表した。 8月中旬から1ヶ月ほどロンドン大学University Collegeのベンサム・プロジェクトに行き、プロジェクト責任者D.Schofield教授と意見交換を行ない、救貧法や宗教論に関するベンサムの草稿の参照、検討を行なった。 秋には、日本経済評論社『経済思想』に提出したベンサムの経済学的認識に関する論文の再検討を行ない、とくに、パノプティコン、救貧法の議論を軸に、再構成を行なった。その延長上に、救貧対策や国際平和の問題と関連して、ベンサムの植民地論の検討を行なった。基本的には植民地反対論を展開するベンサムだが、救貧対策や人口問題への対応という点で、植民地の有益性を指摘するという両義的な議論の特質について、明らかにしつつあるところである。
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