バルク超流動^3Heの性質は、これまでに理論、実験とも盛んに研究され、p波超流動の様々な性質が明らかになり、固体内電子の振舞いを理解する上でも重要な概念を我々にもたらした。バルクの^3He超流動相は、エネルギー・ギャップが等方的なB相と、ノードを持った異方的なA相が高温高圧側に存在することがよく知られている。一方、超流動^3Heをコヒーレンス長程度の狭い隙間に閉じ込めると、境界の秩序変数への影響が顕著になり、バルクとは異なる性質が現れる(サイズ効果)。このような系では、壁面での準粒子の散乱のため、等方的なB相より、異方的なA相の方が安定に存在でき、0barでもA相の出現が予想されている。 本研究では、電子線描画装置に代表される微細加工技術を用いて作成した、くし型電極という微細な構造を持った装置を、1mK以下の超低温環境下での実験に導入することで超流動^3He薄膜の実験を行った。 膜厚dについて0.21【less than or equal】d【less than or equal】7.3μmの範囲で、超流動転移温度を測定した結果、0.8μm以上の厚い膜ではバルクとほとんど同じ転移温度を示し、0.8μm以下の膜厚では転移温度の低下が見られ、バルク的性質から、サイズ効果の顕著な領域への変化を連続的に捉えた初めての実験となった。 また、0.59〜0.26μmの範囲の膜厚についてくし型電極を用いて超流動臨界流の測定を行った。この測定により、超流動^3He薄膜において、駆動させる流量に依存した振舞いとして、非散逸的流れと散逸的流れの境界の膜厚と温度に依存した振舞いを実験的に示した初めての例となった。その結果をスラブ中でのペア・ブレイキング(対破壊)による臨界流の理論と比較すると、温度依存性の一致は見られるものの、臨界流の大きさは、理論予測の20〜30%にとどまるなど、一致は見られず、渦による位相スリップなどペア・ブレイキング以外の散逸機構が働いていることが考えられる。
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