研究概要 |
前年、熱処理した緩衝層上に薄膜試料を作製すると、高次n=2の励起子準位に関する構造が反射スペクトルで観測された。これは、成長段階において理想的なlayer-by-layer成長を行うことができるようになったからであると考えられ、[Appl.Phys.Lett.83,2784(2003)]に掲載された。さらに緩衝層をZnOよりもバンドギャップの大きいMgZnOに変えることで、透過吸収測定が可能となる。それら試料では、透過吸収測定、発光測定においても高次励起子構造が観測され、広い領域における結晶の均一性が向上し、励起子準位を安定に形成できるようになったと考えられる。上記の結果は、ZnO薄膜においておそらく初めてのことであり、品質の高さを物性において実証できたと考えられる。また、MgZnO緩衝層は電気的に半絶縁性を示すため、上部に堆積されたZnO薄膜の電気伝導測定を行うことが出来る。この測定から、残留キャリア濃度の低減、低温における電子移動度の向上が観測された。(現在論文準備中)上記の光学的評価と電気的評価から、p型化にチャレンジする土台が整ったと考え、窒素ドーピングを試みた。均一に窒素のドーピングを行った試料は、高抵抗化を示すもののp型伝導を得ることは難しく現在も奮闘中である。そこで、新たなドーピング手法として"成長温度変調法"を利用した。窒素は付着係数が低く、薄膜中へのドーピング濃度が基板表面温度に大きく依存する。そのため、ドーピング濃度を増加させるには成長温度を低くすることが必要となる。一方、無添加ZnO薄膜の最適成長条件はそれに比べ高温であることから、低温成長では結晶品質が劣化する。これら2つの要求を同時に満たすために、高温成長と低温成長を繰り返し行う成長手法が成長温度変調法である。高温の目的は表面平坦化と窒素の活性化、低温の目的は多量の窒素のドーピングである。まだ予備的な段階であるが、均一ドーピングに比べ2桁以上高抵抗化する様子が見られ、今後p型伝導の実現を目指して研究を続ける。
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