1910年に成立する南アフリカ連邦の形成過程においては、イギリス本国の政策担当者、植民地の主導権争いを展開したオランダ系白人アフリカーナーとイギリス系入植者、そしてこれら白人の支配を受けたアフリカ人などの先住民らが、それぞれ重層的に支配-被支配関係をとり結んでいった。その具体的な過程と帝国支配の重層構造を明らかにし、現在の南アフリカ共和国の原型ともいえる南アフリカ連邦形成の歴史的意義を考察することが、本研究の主たる目的である。 以上の研究目的にそって今年度に行った研究から、論文のかたちで四つの成果が得られた。 1.「南アフリカ連邦の形成」。本論文では、南アフリカ戦争以後連邦形成までの政治史を概説的にまとめた。白人間の民族的確執よりもはるかに複雑な関係を含んだ南アフリカ社会の再編が、イギリス帝国という場に規定されるとともに、逆に帝国の進路にも影響を及ぼしていったことを明らかにした。 2.「南アフリカ連邦の形成とイギリス『原住民政策』」。本論文では、先行研究のほとんどない連邦形成期のイギリスの「原住民政策」を検討した。この時期の「原住民政策」が、19世紀を通して南アフリカで広く行われていた「間接統治」をもとにしていたこと、そしてそのことが後のアパルトヘイト政策の土台となっていったことを実証的に論じた。 3.「ポストコロニアル批評と歴史学」。本論文では、アフリカ史研究の立場から、いわゆるポストコロニアル批評における「学」のついていない「歴史」叙述のあり方を批判した。 4.「南アフリカ戦争の『原因をめぐる一世紀論争』の現在」。本論文では、今日まで南アフリカ戦争の原因をめぐる最も有力な説となっているJ・A・ホブスンの「陰謀説」を、現在の新しい研究成果をふまえて批判的に再検討し、南アフリカ戦争の原因をめぐる現在の研究水準を明らかにした。同時に、南アフリカ戦争研究の今後の課題を展望した。
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